天空の縁側

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作曲家の目を通して、アートや日々の出来事などをあるがままに綴っていきます。

ショパンピアノソナタ3番1楽章〜再現部 分析

 mizuki-shiro.hatenablog.com

 前回は展開部(上記のリンク)まで分析いたしました。今回はいよいよ1楽章の終わり、再現部の分析です。提示部の再現ですので、曲そのものについてはほとんど書くことはありません。

そのため今回は、ピアニストでもあり作曲家でもあったショパンの感覚を、カツァリス氏の公開レッスンを紹介しつつ、記していきます。

 

再現部概略

再現部はH-durに転調し、2テーマから始まります。

調性は、原調のh-mollに戻ることなく、H-durのまま終わります。これは2楽章(Es--dur)への接続をスムーズにする理由もあると思います。

再現部はじまり

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再現部はじまり〜譜例27〜

音源:6’13”〜

古典的なソナタ形式の再現部においては、1テーマから再現されることがほとんどですが、この楽曲は2テーマから再現されております。理由は展開部の最後の部分で、提示部の一部(1テーマから2テーマまでのつなぎの一部)を出しているため、必然的に2テーマを出すことになったのでしょう。

同主調へ転調しています。これは2楽章以降のことも考えて書いたか、2楽章以降を書いてから、手直し(原調のままではなく、同主調へ転調させたか)したか、どちらかの理由によるものと思われます。

2楽章はEs-dur  3楽章はH-dur、4楽章はh-moll。2楽章のEs-durは1楽章の再現部H-durの長3度上。H-durの第三音とEs-durの主音をエンハーモニックでつないで、2楽章への架け橋としたのでしょう。

作曲は、最初から最後まで順に書いていくことは少なく、展開部から書き始め、テーマを後からくっつけて、辻褄合わせをすることもあります。ショパンはピアニストでしたから弾きながら作り、手直しを繰り返して、まとめていったのだと思います。

1楽章コーダ

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1楽章のコーダ〜譜例28〜

音源:8’30”〜

1楽章の終結部分の冒頭です。

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1楽章最終部分〜譜例29〜

上記の和声進行、赤丸がついている部分、教科書的には不自然な扱いがされております。Ⅴ7の第七音であるEが2度下降し、根音が3度下降、この二つが同時に起きることは良くないと(やってはいけない!)習った覚えのある方も多いと思います。しかし、ショパンはやっております。

次の譜例はこの部分を、教科書通りに手直ししたものです。

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1楽章最終部分手直し〜譜例30〜

 いかがでしょうか?不恰好ではなくなっていますが、響き的に面白みがありません。

譜例29ではH-durのⅠの第三音であるdisを重ねることによって、2楽章の調性Es-durの主音を強調したのではないでしょうか?これは2楽章の分析を読んでいただければ合点がいくと思います。

カツァリス氏 レッスン


Katsaris Chopin Masterclass Vol.13 Sonata No.3 1st Mov

 ピアニストのカツァリス氏のレッスンです。理屈と表現が一致しており、無駄がありません。言葉に詩的表現が多く、レッスンではあるのですが日常を忘れさせてくれます。

ショパンが同じ曲を何回も弾く時は、いつも違った弾き方をしたのです。同じパッセージが何回も出てくるときは、ダイナミックやキャラクターにいろいろ変化をつけました。ショパンの演奏を聴いた人々の証言から、彼の考えをうかがうことができるのです。」

8’23”あたり、2テーマへのつなぎの部分では、同じモティーフが5回繰り返されます。こちらでは

 

「2回目はこのように弾くといいですよ」

と、内声を意識し、強調する音に変化をつけることを伝えておられます。ショパンの時代の再現とでもいいましょうか?作曲家の意図(同じパッセージが何度も出てくる時は変化をつける)に忠実にレッスンをされることは、素晴らしい。

 

地球の大気の中を突き抜ける太陽光線をイメージして それは大気を通過するときに、少し変調をきたすので

8’58”あたり、2テーマ直前の変化音が続く部分です。変化音を意識することでしょうか?

「スカイブルーの主題に導いてくれるのです。ニ長調はスカイブルー これは太陽がいっぱいな主題です

これは2テーマのこと。D-durの色合いについて語っておられます。

これはヘ長調と似ていて、ヘ長調は緑なのです。 田園交響楽を思い浮かべてください。ここはニ長調でスカイブルーで、太陽がいっぱいな調性で、力を抜いて楽にして、もう少し柔軟に。くつろぎとおおらかさがともにあるのです。

F-durは管楽器系、D-durは弦楽器系の響きがしますね。

20’56”の展開部の導入部分については

このパッセージは男たちが議論しています。自己中心的な議論なのです。すると一人がこう言います。「こうであるべきでしょう」すると別の男が応答します。 「いや 違う!」「 私はむしろこうあるべきだと思う。」「いや 違う。あなたは間違っている。」これは戦いです。闘争的議論です。男たち一人一人の自己主張です

 と。音楽的理屈は、私が展開部のところで色分けして書きましたが、カツァリス 氏はストーリー展開されております。

他にもインスピレーションに富んだ表現がたくさんでてきます。日本のピアノの先生のレッスンとは大幅に違うと感じるのは、私だけでしょうか?

 

さて、リパッティ の音源を貼った理由は、彼が正統的な作曲家でもあったからです。共感を覚えたので、張らせていただきました。

 音源

次回からは2楽章に入ります。