1楽章につきましては、カテゴリーの、スピリチュアル的楽曲分析をごらんください。↓ ↓
ショパンのピアノ曲はきれいなだけで、大したことはないと評している方もおられます。確かに女子供を狙って書いたつまらない曲もあります。しかし、重要な曲は次の時代への橋渡しを感じさせる部分があると、私は思っています。
ピアノソナタ3番は、正統的書法にとらわれることなく、良い意味での「裏切り」があります。裏切りを見抜くことによって、曲の面白さに目覚めることができるかもしれません。楽曲分析は人それぞれの感じ方があって良いと思います。楽式論などの書籍を読んでもわからないし面白くない。この感情から、出発してはいかがでしょうか?独自に譜面を読み解くことによって、作曲や演奏にも大いなる進展があると思います。
概略
2楽章はスケルツォで三部形式です。スケルツォとは諧謔的でユーモアに富む曲調を指します。曲調は明るく1楽章のような取っつきにくさはありません。しかし細部にはさまざまな工夫がこらされています。
この工夫は「秘すれば花」と言いましょうか?風姿花伝にも記されているとおり、人の目に触れず、予期しない感動を起こさせる手段がそこここに見られるということです。隠された花を見るには、他人の演奏を聴き流すだけではなく、自力で譜面をみることです。
構成は頭にも書きましたように、ABAの三部形式です。
A(提示部)はEs-dur、 B(対照 トリオ)は三度転調(エンハーモニック転調)して1楽章の再現部と同じくH-durに、再びA(再現部)に戻って終わります。今回は提示部を分析いたします。
提示部1
音源:12'30"~
以下8個の材料が提示されます。
- 半音階進行 譜例ではラベンダー色で囲んだ部分です。
- 5度 4度 1楽章と同様、スピリチュアル的見地にたてば、孤独と亡き父の暗示。譜例では赤(5度)とピンク(4度)で囲んだ部分です。
- 1オクターブ 譜例では青色の部分です。
- 付点のリズム 譜例では紫色で囲んでいます。拡大、縮小など。八分音符と絡み、味な展開が行われます。
譜例では青い丸で囲んであります。提示部コーダ、トリオでは重要な役割を果たすリズムです。
- 1楽章1テーマ頭、16分音符(G-Fis-D-H)から派生した音型 譜例では緑色で囲んであります。
- 1小節目のオレンジで囲んだ音。あらゆる部分に出てきますが、特にコーダでは強い印象を与えます。
- シンコペーション 譜例では左手、赤丸で囲んだ5度の音型です。曲中のあらゆる部分に出てきます。
提示部2
音源:12'42"~
提示部2へのつなぎでは、青色で囲んだBの音が飛び跳ねます。連打、オクターブ、2オクターブ、緑色で囲んだ6.の音型とともに、弾け飛んで消えていきます。そして、g-moll(平行調)に転調し、新たなステージが始まります。
ラベンダー色で囲んだ部分、単なる半音の連なりにみえるでしょうか?右手の音型を左手で拡大して受け止めています。不安、メランコリックな雰囲気が強調されているように感じます。
音源:12'47"~
提示部2は展開部分ですので、調性が頻繁に変化します。
g-mollから始まり、f-mollからc-moll、そして再びEs-durに戻り、提示部3へと移っていきます。 和声的には譜例の5小節目が共通和音による転調、つまりf-mollのⅠ度をc-mollのⅣ度と読みかえること。譜例8小節目には、c-mollの半終止(Ⅴ度)、次の9小節目にはEs-durの属七の和音を置いて、半音階的転調をとっています。
特筆すべきは、c-mollに入ってから2小節目、緑色で囲んだ部分です。拍子記号は3/4ですが、2/4のフレーズが約3回繰り返されています。これは譜例32で記しましたBの音の跳躍を発展させたものと考えられます。譜例32ではBの音を、譜例33では音型を意識、繰り返して拍点をずらすことにより切れ目のないフレーズ感を表出させたかったのでしょう。
この観念は次の提示部3のコーダで強調されます。
8小節目の右手、譜例では青い四角形で囲んだ音、オクターブを置くことにより、提示部3の始まりを強調しているのではないでしょうか?
提示部3
音源:12'50"~
提示部3は提示部1の再現(繰り返し)です。
音源:12'59"~
コーダ(譜例34)では提示部2に記した拍点の移動がより顕著となります。3/4の拍子感は完全に崩れ去り、音型のうねりが続きます。加えて、提示部1で提示された材料が有機的につながり、強い印象を与えます。
コーダの材料ですが・・・
提示部1で指摘した材料のうち、1.の半音階は譜例34の2段目、ラベンダー色で囲んだ部分。3.のオクターブについては、一目瞭然。コーダ全体がオクターブで書かれております。
4.の付点リズムについては、2段目からのEsの連続の中にあります。譜例では、赤い丸で囲んだ部分です。Esの連続の間に音が入っていますが、これらを抜いてみてください。付点のリズムを刻んでいることがわかるでしょう。
3段目の最初は2段目の付点リズムの拡大とみました。
5.のリズムは最後2小節に現れ、逆行のリズムを形成して、提示部を閉じます。Esの音を長く伸ばしているのは、次の部分、トリオの最初の音Disにスムーズにつなげる準備です。三度転調ではありますが、Esをエンハーモニックに読み替えて、遠隔調のH-durにつなぐのです。
6.の音型は譜例1段目に現れて、5回繰り返されております。5という数字はスピリチュアル的にみれば、孤独や自我の葛藤などを暗示します。このときショパンは父を失っただけではなく、自身も重い肺病にかかっていたようです。彼が5という数字を意識していたかどうかはわかりませんが、分析によって同一の数字が現れるのは不思議であり、怖さをも感じます。
7.の音型はEsの連打、半音階と共に姿を表します。
2段目左手(オクターブなので右手も同様)、黄緑色で囲んだ音(Es-D-F-Es)は2段目3小節目、4小節目で拡大(B-A-C-B)されています。このような拡大縮小の他に、あるモティーフを別のモティーフに言い換えて、意味を繋げる方法など、ショパンの過去の書法にはあまりみられなかった部分もあります。人生が大きく変容するような出来事が彼の創作にも影響を与えたのかもしれません。
音源
カツァリス 氏の演奏です。1楽章終わりが少し入っています。
Cyprien Katsaris - Chopin: Piano Sonata No. 3 in B minor, Op. 58
次回は2楽章のトリオ(中間部分)です。
↓ ↓