天空の縁側

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作曲家の目を通して、アートや日々の出来事などをあるがままに綴っていきます。

ショパンピアノソナタ3番3楽章〜中間部(トリオ)前半 分析

mizuki-shiro.hatenablog.com

 

 

前回(上記のリンク)は提示部を分析いたしました。今回は中間部(トリオ)前半です。長い曲ですので、1回に収めることになれば、譜例も見にくくいやになるでしょう。ただでさえ難解な曲が超難解になりますので、2回に分割して記します。

3楽章トリオの部分では、過去に何度も記してきました5の暗示(譜面上では5度の積み上げによる和声の響き)と、問いかけと答えうねりを中心として、展開されます。

漂う魂や天の存在を感じる音楽です。天に問いかけても、答えは見つかりません。しかし、心模様は繊細な音の織物とつながって広がっていきます。最終部分では、提示部のコーダが現れ、現実世界に引き戻されます。

全ては自分の中に答えがある、ということではないでしょうか?

中間部は下記の5部分に分けられます。

A (提示)→A'(再現)→B(展開)→A"(再現)→C(コーダ)

 

この楽章は冗長であると評されることがあります。繰り返しによって成り立っているからです。この繰り返しを演奏者がどのように解釈するかが、腕の見せ所になるのでしょう。カツァリス さんは、以下のように述べておられました。

ショパンが同じ曲を何回も弾く時は、いつも違った弾き方をしたのです。同じパッセージが何回も出てくるときは、ダイナミックやキャラクターにいろいろ変化をつけました。ショパンの演奏を聴いた人々の証言から、彼の考えをうかがうことができるのです。

創作面からみると、得るものが大きい楽曲です。ショパンのオリジナリティがあちこちに散見されるだけではなく、奥深いところにある悩みや思想にも触れられるかもしれません。あなた独自の分析を試みましょう。創作には大きな拠り所となると思います。

 

A(提示)

Aは3部分に分かれます。スピリチュアル的には第1部ではは天の存在を、第2部では天への問いかけと答えを暗示し、第3部では葛藤を感じつつ、次の舞台へつなぐ役割を果たしていると思います。

第1部

音源:17’42”〜

下記の譜例59中、1(赤字)と記されているところから3段目の2小節目(赤い波線)までが第1部です。

 

 

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トリオのはじまり〜譜例59〜

 第1部は以下の4つの材料で統一されています。

  1.  5度の響き 孤独 葛藤の暗示
  2. うねり
  3. 1楽章の1テーマ、頭の音列(緑色の丸 赤い丸は拡大)
  4. コーダの材料より(薄紫の丸と矢印)

 

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5度の響き〜譜例60〜

上記の譜例60は、全体を覆っている5度の響きです。Eから5度づつ積み上げていき、またEに戻って5度を積み上げる。私はこの響きに、雲海の流れる光景と思考の繰り返しを感じました。

5度の響きはうねりと共に流れます。2.のうねり音型の元は、提示部コーダにある音列をそのまま生かしています。譜例61参照

譜例61

 

 

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提示部コーダより〜譜例61〜

上記の譜例61の中で薄紫で囲んだ部分が、うねりの音型となって姿を変えていきます。譜例62をごらんください。

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譜例61説明〜譜例62〜

譜例61で囲んだ薄紫部分を音列にして提示しました。逆行=逆から読むことです。

このように、主として提示部のコーダの材料を使い、トリオに受け継いでいます。聞き流していては、気付かないかもしれません。甘美、抒情的、夜想曲風などの印象が多いようですが、譜面をみればまた別の印象も得られると私は思います。

このうねりの音型1楽章の頭の音列や導入部分の材料でつなぎつつ、 次の場面へと流れていきます。ここでも提示部コーダの材料が生かされています。

第2部 

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トリオ続きと接続〜譜例63〜

音源:18’10”〜

譜例63赤字の2から3の手前までが第2部です。

この部分は以下の5つの材料で統一されています。

  1. 問いかけ(Aと表示)と 答え(Bと表示) 
  2. 1楽章の1テーマ、頭の音列(g-fis-d-h)より (緑色で囲んだ音型)
  3. 5度の響き 第1部とは別の方法で (赤い四角と点線で囲んだ部分)
  4. うねり (茶色で囲んだ部分)
  5. 提示部コーダの材料 

 

1.問いかけのAは、5つの材料のうち、2.1楽章の1テーマ頭、(緑で囲んだ音型)によるアルペジオそして3.の5度の響き(赤い四角で囲んだ付点)を使っています。付点の部分については、下記の譜例64&65をごらんください。

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譜例63より 5度の響き〜譜例64〜

譜例64は全てではありませんが完全5度を重ねた響きです。

 

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譜例63より 5度の響き〜譜例65〜

譜例65は減5度、増5度も混ざった複雑な響きがします。(調性がgis-mollに変化しているため)内声に根音がありますので、わかりやすくするために、和声は左側の音型のaltoをbassに移動させました。

右側の和声の構成音は全て左側の音型に含まれています。最初これを発見したとき、不思議な感じがしました。

次に答えのBの部分ですが・・・

こちらは、アルペジオを経て、次の小節から2小節間・・・提示部コーダの赤い丸で囲んだ部分をそっくりそのまま使っています。譜例61参照

加えてこの部分には、内声に提示部展開でお目見えした特徴的な音型が使われています。下記は提示部で提示した譜例55の再掲です。

 

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問いかけと答え〜譜例55〜


 これらの材料を組み合わせて繰り返し、第3部(接続部分)に入ります。

 第3部

音源:18’40”〜

譜例66の2小節目から2小節間が第3部です。

この部分では、目立たないところに味わいのある工夫が凝らされています。

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第3部抜粋〜譜例66〜

赤丸で囲んだ音に注目してください。詳細は下記譜例67に記しています。

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譜例66の上声部と内声の比較〜譜例67〜

先に内声が入って、2拍遅れて上声部がはいります。上声部の最後の音は便宜上、4拍伸ばしました。(ペダルを踏むこと&1オクターブ下にもHがあるので、音が続いているとみなしました。)

内声と上声部のリズムは互いに逆行を形成しつつ、強調しあっています。それだけではなく、この楽曲全体を統一する音disが絡んでいます。disの連打の後には、休符がありますが、これが重要です!余韻を感じること、次の場面への準備でもあります。この2拍の休みがなければ、締まらない音楽になるでしょう。

disの音はできれば、ビロードのような音色が欲しいと私は思います。(これは私の独断的感覚です。)

A'(再現)

音源:18’48”〜

A'はAの第2部までをそっくりそのまま繰り返しますので、分析は省略します。

A'第3部

音源:19’44”〜

Aの第3部と譜面上は似ていますが、音楽的内容は異なっています。

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A'第3部〜譜例68〜

 

譜例682小節目までがA'の第3部です。左手1小節目に括弧でくくられているのは、原典版にはない音です。そのため、譜例68(音源通り)と原典版の2種類について記します。

1)音源通り

譜例68をごらんください。括弧でくくった音型、左手のcisis-dis-fis-eは提示部コーダの材料です

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提示部コーダの最終部分〜譜例70〜

譜例70は、提示部コーダの最終部分です。譜例70赤丸の音を使い、内声で模倣していることがわかるでしょうか?具体的には、下記の譜例71をごらんください。

 

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音源の譜例音列〜譜例71〜

ここでA'が終わるというサイン(提示部コーダの最終部分を使っているので)を出し、展開部分に入ります。カツァリス さんの演奏も(音源)A'の終わりを意識なさっているのか?この音型を大切に弾いておられると感じました。

 

2)原典版

原典版の左手は下記譜例69を参照してください。

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原典版左手〜譜例69〜

省略しておりますが、右手はうねりの音型が続いています。展開部分に向けての純粋な接続(なだれ込むための役割)を意味していると思います。

上記二つを比べてみますと、多少ニュアンスは違いますが、次の部分へのつなぎであり、A'の終わりを告げる部分であることには変わりはありません。

 

作曲において繰り返すことは、大変勇気のいる行為です。ショパンは、リピート部分=Aの部分 に自信を持っていたのではないでしょうか?

音源


Cyprien Katsaris - Chopin: Piano Sonata No. 3 in B minor, Op. 58

 17'42"くらいから、トリオが始まります。

 

 次回は中間部(トリオ)後半に入ります。

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