1〜3楽章につきましては、カテゴリーの、スピリチュアル的楽曲分析をごらんください。↓ ↓
4楽章はロンド形式です。循環部(A)と対照部(B)の繰り返しによる嵐のような楽曲です。1〜3楽章の屋台骨的な音である、dis(es)はこちらでも重要な要素となっています。転調において、disの音を中心とする調性や近親調へととんでいくことが特徴となっております。
今回は、序奏→循環部Aまでを分析いたします。
序奏
序奏 音源:24’24”〜
fis=h-mollの属音(5番目の音)が連続しており、この楽章でも5(スピリチュアル的には孤独 自我 絶望などの暗示)が中心となっていることが提示されています。黄緑色で囲んだ部分、この場合はfisのオクターブ(曲中ではfis以外の音においても)の拍の移動による、響の多様性をも提示しています。
他には、半音階的進行(青い矢印)、6度を含むフレーズ(赤の囲み)が音域の違うオクターブ連打と相まって「広がり」を予告する場面でもあります。
循環部A
音源:24’34”〜
循環部Aはこの楽章の基盤となる重要部分ですので、3部分にわけて詳細を示します。
1︎⃣ はじまり
譜例89
1楽章1テーマ頭の逆行形(緑色で囲んだ部分)が、オクターブと和声の組み合わせにより、属音の長音符(オレンジの丸)を目指して、うねる音型を奏でていきます。(譜例89参照)
1楽章1テーマ頭の逆行形(緑色で囲んだ部分)とは、下記譜例90を参照してください。
譜例90、1段目、左側の音列が1楽章1テーマの頭で、右側はその逆行形です。2段目は、1段目の音列に和声の都合上、多少変化が加わっています。右側はその逆行形ですが、重音や和音になっています。
これらの音型はオクターブでつながれています。(下記譜例参照)
譜例91の小節数(赤い文字)は、譜例89←(こちらをクリック)に準拠しています。オクターブの音だけを抜き出してみたものが、下の譜例92です。
これらのオクターブが波打つ和声と相まって(譜例89の和音記号参照)心の奥底にある不安、恐れ、葛藤などを表出させているように、私は感じています。
属音の長音符(オレンジで囲んだ音)が響き渡った後、半音階(青い丸で囲んだ部分)により、第二部分に接続されます。(譜例89参照)
2︎⃣中間部
中間部は譜例90の2︎⃣〜3︎⃣の手前までです。
譜例90
中間部の材料は以下のとおりです。順に記していきます。
- 刺繍音的素材(薄紫で囲んだ部分)
- 主音と属音による5度の強調
- 序奏の最終部分(譜例90の赤で囲んだ部分)
1.刺繍音的な素材とは、文字通り縫い物をするような音の動きを指します。譜例90では、薄紫色で囲んだ部分です。下記の譜例91は、音の動きをわかりやすく記しました。(譜例90参照)←クリック
非和声音をBに配置した音型を刺繍音と呼びます。ただし今回は、刺繍音的な素材と称しましたので、必ずしもB=非和声音とは限りません。
刺繍音的な素材が内声に模倣され、他の材料と結び合って、うねりを奏でる部分をごらんください。(譜例92参照)
譜例92の薄紫で囲んだ音の動き D E Dは、低音域内声でE D E D----と繰り返されております。加えて、この動きの下で、主音と属音の5度の連続がうねりを助長します。(譜例93参照)
2.譜例93は主音と属音による5度の強調です。
右側の譜面は、わかりやすいように、低音部を分割しました。左手が5度の動き、右は合いの手です。左側は譜例90の2段目、1小節目の終わりから2小節目にかけて。右側は2小節目4拍目以降の部分です。譜例90へ←クリック
中間部分の少し前から、属音を強調、印象づけながら、第三部の頭(属音の長音符)に向けて、音の連携を深めていきます。
3.序奏の最終部分について、再度確認してみましょう。譜例88に飛びます←クリック
中間部には、最後の2小節、fis-d-cis(赤で囲んだ部分)の6度や、dとcisの音に刺繍音を加えた音型が見られます。これは譜例90を確認してみてください。赤で囲んだ部分を見れば、一目瞭然。序奏の最終部分を素直に使っていることがわかると思います。。譜例90へ←クリック
このように中間部では、材料を巧みに組み合わせて、属音の長音符に感じられる絶望を、強く訴えていると私は感じます。
3︎⃣終結部(循環部A1へのつなぎ)
この部分は中間部の緊張から解き放たれ、半音階的進行が続きます。こちらも序奏の材料が生かされています。
音源
Cyprien Katsaris - Chopin: Piano Sonata No. 3 in B minor, Op. 58
4楽章は、24’24”からスタートします。
次回は循環部A1を分析します。↓ ↓ ↓