4/10、東京文化会館小ホールでの演奏会に伺ってきました。郷古廉さん(ヴァイオリン)と加藤洋之さん(ピアノ)による、ベートーベンのヴァイオリンソナタ全曲演奏会の最終回でした。
私は、お二人のことは、昨年(2018年)NHKのテレビで知りました。その頃はまだ母が自宅にいて(何とか歩けたので)私が週に一度料理作りや掃除に、通っておりました。夕食のあと何となくテレビをつけたところ、このお二人の演奏が始まったのでした。
母は、音楽の「お」の字も知らないド素人ですが、娘が音楽を勉強していた関係で、感覚でわかる面をもっています。母はテレビでお二人の演奏を聴いて、こんなに上手な人たちがいたのか!!と感動しておりました。この演奏が後を引き、次の週も聴きたくなり、同じ番組をみましたが、ブルックナーでして・・・
母の趣味には合わなかったようです。
この母も、昨年の秋には寝たきりとなり、介護施設に入所中です。多少でも歩けたならば、昨日の演奏会には連れていきたかったです。施設でも、良い音楽を聴きたいと言っていますが、望みは叶っておりません。
さて...昨日の演奏会。クロイツェルソナタ(9番)とソナタの10番、そしてアンコールにシューベルトの幻想曲が演奏されました。アンコールも大曲なので、3曲分のボリュームがあったと思います。
クロイツェルソナタのエネルギーには圧倒されました。お二人のもつ音楽の力により、勝手に身体が動いてしまうような感覚を得ました。もしかしたら、無意識のうちに身体が動いていたかもしれません。
「われわれはこう思っているんだ!君たちはどうなんだ?!!!!」とボールを投げつけるような強いメッセージが込められており、1音1音に意味があることを感じつつ、聴いておりました。
デュオの曲は、ピアノが添え物でヴァイオリンが主役ということはありません。互いに協調しあう部分、かけあい、ソロ、同時進行などなど・・・様々な景色があります。そのため、ピアノパートも重要なのです。
加藤さんのピアノは、曲に入る前の調弦のときから、独特のくすんだ音色を持っておられる方なのかなぁ?と思いました。調弦のときから、われわれを非現実の世界にもっていこうとしておられたのでしょうか?
音の厚み、ヴァイオリンとの音色の対比、混ざり具合が絶妙でした。フォルテが耳障りではなく、柔らかく包み込むような音色であったことも、素晴らしかったことの一つです。
何か、調律で細工を仕掛けたのかと思うほどでした。文化会館小ホールは何度も出かけていますが、加藤さんのような音色を出す方にはお目にかかったことがありません。郷古さんが加藤さんとおやりになっている意味も、少しわかったような気がしました。また、お二人とも、言葉では言い尽くせない、絶妙なバランス感覚を持っておられると感じました。
シューベルト、荘厳で気高い演奏でした。難曲中の難曲だと思いますが、そういうことを感じさせない、天を意識させてくれるような演奏でした。
追加ですが・・・
作曲法教程(元芸大作曲科教授 故長谷川良夫著)という書籍より、クロイツェルソナタについての文章を引用しておきます。この書籍は絶版になっていますが、なかなか価値のあるもの。私は40年ほど前に買い求めて、いまだにわからないことがあれば、引っ張り出して調べております。
この編成(Vlとpfとのデュオ)は、不思議なように情熱的な作品が書かれてきている。そしてだいたいにおいてそういうものが良い曲なのである。その意味での代表的作品がベートーベンのクロイツェルソナタ ブラームスの3番などであろう。
10日の演奏会でも、9番と10番とが続けて演奏されますと、私の耳には9番のクロイツェルソナタが佳作と聞こえてしまいます。弱小ながらも音楽の仕事を続けてきまして、少しばかり音楽体験を積んでおりますと、どうあがいても9番には勝てないことは耳と感覚で理解できるのです。
名曲に名演奏。10日の演奏はクロイツェルという天下一品の名曲に名演奏であったと、言い切っておきましょう。
過去には2017年12月のエマールさんのメシアン(20のまなざし)を聴いて、大きく人生が変わりました。今回も私にとっては、人生の大切な決断をするほどの大きな意味をもたらしてくれる演奏でした。今後もお二人の演奏に触れ続けていくことでしょう。