前回は、循環部A2 A3(上記のリンク)を分析いたしました。今回は対照部B1 に入ります。
対照部B1
1︎⃣はじまり
音源:26’45”〜
譜例119は対照部B1のはじまりの部分です。赤い丸を注目してください。
対照部B1はB-durの下方変位の属9の和音をクッションにして、遠隔調であるEs-durにエンハーモニック転調します。下記譜例120はエンハーモニック転調を取り出して、記してあります。
ごらんのように、記譜は違いますが、全く同じ和音を使っています。この例からも、エンハーモニック転調とは共通和音による転調とも言い換えられます。下方変位とは半音下げること。減七の第5音を半音下げることにより、H-durの属七と共通となります。
H-dur Ⅴ₇=B-dur の下方変位の減七(サブドミナント) → Es-dur Ⅰ₂ Ⅴ₇(ドミナント)
上のような和声展開となっています。わからない方は、譜例120を参考に、鍵盤楽器で音を出して確認してください。
対照部B1はBを繰り返しつつ、転調と終結部に変化を持たせています。比較しながらみていただければ幸いです。下記は対照部Bへのリンクです。
Es-durで始まり、平行調のg-mollに転調した後、同主調G-durのⅠ(+Ⅰ)につなぎます。+Ⅰはc-mollのⅤですから、後々c-mollが現れることを示唆していると思います。青い線で囲んだ部分は、終結部への接続として使われる重要な材料です。(下記譜例121参照)
4楽章は、ドミナントの和声を引っ張る(伸ばす)部分が多いです。
スピリチュアル的見地にたてば、ドミナント=5の暗示がありますので、ショパンの潜在意識に潜んでいた孤独や葛藤が、ここにきて明確に浮かび上がってきたのではないかと思います。
譜例121
その後は譜例121で記しました予測どおり、c-mollに転調します。そして再び平行調のEs-durに戻り、中間部分(2︎⃣と記されている)に入ります。(譜例122参照)
2︎⃣中間部分
音源:27’11”〜
譜例123はEs-durからAs-durへ転調していく和声の経過を分析したものです。
こちらに記しましたように、ドミナントを引っ張る(伸ばす)例としてみていただければと思います。
赤の括弧でくくった和声は概ね、経過的に扱われています。ドミナントの硬い印象を避けるため、サブドミナントをはさんで、しなやかな時の経過を感じさせるように書かれているのです。
下記譜例124は終結部への接続です。譜例121の青く囲んだ部分の変奏であることは明白だと思います。
譜例124
赤で囲んだ部分は1オクターブの隔たりでの模倣、グリーンの囲みは1楽章1テーマの頭を利用したパッセージ、青で囲んだ和声は終結部への橋渡しをします。
詳細は譜例125 譜例126を参照してください。
譜例125は譜例124の模倣部分を抜き出したものです。この方法は、次の終結部でも、引き継がれています。
終結部への橋渡しとして、譜例124の青で囲んだ和声があります。終結部はD-durから始まりますので、この調の下方変位のⅤ₇を置いてつなぎます。詳細は譜例126を参照。
右と左は同じ音です。この和声を橋渡しとして、次につないでいきます。
3︎⃣終結部
音源:27’30”〜
譜例127は終結部の始まりです。
終結部は譜例124を発展させた部分、対照部Bのリピート部分の2つに分けられます。
こちらに記しましたように、ドミナントの部分を引っ張っています。 →4小節間、D-durのⅤ₇の和音が続きます。
緑色の波線は、1楽章1テーマ、頭の音列です。(譜例124参照)
次の小節(下記譜例128)から循環部A4に入るまでは、h-mollのドミナントで貫かれています。
この部分(譜例128)は、リピートの嵐ですね。
下記譜例129は循環部A4への接続部分の入り口(青い波線より)です。対照部Bの終結部に少しアレンジが加わり、繰り返されます。
全体を通して、印象的であるのはドミナントです。ドミナントの和音を引き延ばすことにより、5の暗示が強められ、楽曲全体のクライマックス(4楽章最終部分)へと、階段を駆け上がっていくような印象を受けています。
音源
Cyprien Katsaris - Chopin: Piano Sonata No. 3 in B minor, Op. 58
対照部B1は、26’45”〜からスタートします。
次回は循環部A4以降を分析します。
ワンポイント無料レッスン
分析への質問、その他音楽の質問、ワンポイント無料レッスンを受けつけています。詳細は以下のリンクから問い合わせてください。リアルタイムでのレッスンからは撤退しております。思うところあり、無料で質問にお答えする方法は継続しますので、ご遠慮なくどうぞ。