天空の縁側

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作曲家の目を通して、アートや日々の出来事などをあるがままに綴っていきます。

ショパンピアノソナタ3番4楽章〜循環部A4 A5 〜分析

mizuki-shiro.hatenablog.com

 前回は、対照部B1(上記のリンク)を分析いたしました。今回は循環部A4 A5に入ります。

 

循環部A4

音源:27’49”〜

下記譜例130対照部B1終結部終わりから循環部A4へつなぐ部分です。

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循環部A4への接続〜譜例130〜

ほぼ属9の構成音(青色で囲んだ部分)で押し通しています。

また対照部B終結部と同じく、1楽章1テーマの音列逆行(赤い四角)につなぐために、fis-gを繰り返し強調しています。5という数字を意識させ、強調していることが見て取れると思います。

譜例131は上記の属9の構成音と、譜例130の2段目の青色で囲んだ部分の詳細です。

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属9の和音と5度の積み重ね〜譜例131〜

①はh-mollの属9の構成音です。5度の積み重ねからできています。この構成音を用いて、循環部A4へとつないでいきます。

② は譜例130、2段目の5度を使っての接続(青色で囲んだ部分)を、構成音のみ抜き出して記しております。

 

 循環部A4 A5は、A3の不安定さから解放され、16分音符の連続による安定感により、コーダに向けてのスピード感が増していきます。

 

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A4はじまり〜譜例132〜

 譜例132A4の始まりです。左手は同じ音型が続いています。ただし、惰性で書かれているわけではありません。右手と左手は独立しているだけではなく、協調しあってすすみます。過去の分析と重複しますが、一例としてごらんください。

h-moll主音の保続音の上で、2度音程が拡大、模倣し繰り返されます。(赤色で囲んだ部分)そして平行調に転調する場面では、過去にもありましたように、1楽章1テーマ頭の音列(A4冒頭の右手の音列)を共通項として接続していきます。

伴奏とメロディの有機的関連の詳細については下記譜例133&134をごらんください。

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A4あたま〜譜例133〜

右側の音列は繰り返し記してきました、1楽章1テーマ頭の音列です。左手アルペジオには、この音列の構成音であるfis-gの1オクターブ下、加えて冒頭の重音dを受け渡し、d-eと3度下で模倣しています。これらを主音であるhの保続音上で響かせるのです。

 

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平行調への接続〜譜例134〜

譜例134はD-durへ、2段目の音列(1楽章1テーマあたま)を利用してつないでいます。

丸で囲んだ音は逆行、三角は反転です。aisとhh-mollの導音と主音を橋渡しとして平行調に移動しています。余談ではありますが、反転の音列(ais h d fis)これはスケルツォ2番のテーマの音列でもありますね。

 

上記のように、さまざまな材料を含みつつ、アルペジオは延々と繰り返されていきます。ただし、2箇所だけ、違っている部分があります。

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非可逆な音列〜譜例135〜

譜例135の1拍目は、1音目のバスを除いて、非可逆な音列=逆行ができない音列です。(a-d-aは左から読んでも右から読んでも同じです。)循環部A4 A5アルペジオは、ほぼこの音列となっています。2拍目は可逆の音列=逆行できる音列であります。この可逆の音列は循環部A4 には二箇所しかありません。譜例136をごらんください。

譜例136

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可逆の音列2箇所〜譜例136〜

黄緑色で囲んだ部分可逆の音列を使っています。この2箇所を非可逆の音列にすることは容易ですが、それでは音の織物が崩れてしまうのでしょう。規則性を崩す必要があったのだと思います。

上記譜例136は次の沈めに向けて盛り上げていく部分です。そのため1音1音が絡み合うような、ポリフォニックな展開が大胆になされています。詳細は下記をごらんください。

 

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2度の模倣〜譜例137〜

譜例137は、2度の音程譜例136参照)の模倣を示したものです。上声部の2度を左手のアルペジオ内で拡大、縮小することにより、立体的に聞かせています。可逆の音列がある1小節目2拍目は、半音を用いて次の小節の1拍目eにつなぐ役割を果たしています。(青い丸で囲んだ、低音域のe-dは上声部の2オクターブ上e-dにつながります。)

 

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5度の連続による接続〜譜例138〜

譜例138連続する5度を受け取り、次につなぐ部分です。3小節目の左手アルペジオ(可逆の音列)はクッションとなり、4小節目の上声部に5度(h-fis)で受け渡します。また、点線で囲んだ音型=6度は、hを軸足として上方に動いています。この特徴をも利用し、5度(h-fis)へとスムーズにつないでいることが見てとれると思います。加えて3小節目上声部g-fisの2度の動きは、1オクターブと6度下(h-ais)へと模倣されており、合計3つの材料が組み合わせることにより、緊張を高めています。

 

こちらの部分、他にも有機的な展開がなされています。譜例136を見ながら確認してみてください。

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模倣1〜譜例139〜

譜例139譜例136の3小節目 薄紫で囲んだ音を抜き出してあります。上声部をアルペジオのトップの音(6度下)へ模倣しています。

 

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模倣2〜譜例140〜

譜例140譜例136の2段目1小節目〜2小節目にかけて。青色で囲んだ音を抜き出してあります。上声部の音列を反転させています。

この部分、多くの材料が絡み合っているだけではなく、強弱記号がなくとも、自然と盛り上がります。A4のクライマックスと捉えて良いでしょう。

循環部A5

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循環部A5始まり〜譜例141〜

音源:28’09”〜

循環部A5A1のバリエーションであり、再現です。譜例141は、始まりの部分です。

特徴的なのは、最終部分、コーダ手前の接続です。譜例142(コーダ手前)と譜例141(A5始まり)を比較してみてください。

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コーダ手前接続〜譜例142〜

譜例142 (コーダへの接続)は、3種類の材料で展開されていきます。これらは、譜例141(循環部A5始まり)の中にあります。具体的には以下の3つです。

  1. オクターブ(赤丸、線)
  2. 2度音程(グリーンで囲んだ部分)
  3. 5度音程(青色の四角、線)

 オクターブの跳躍オクターブ重音に読み替えられ、これらのつなぎ役として5度の重音、もしくは5度を含む和声が置かれています。2段目になれば、コーダのフォルテへ繋ぐために、音域が広がり、音の厚みが増していきます。

 

循環部A4 A5においては、一見単純そうにみえる譜面ながら、多くの要素が音楽的に絡み合っていることが理解できると思います。私が記しましたのはほんの一部です。ご自身で譜面を精査することにより、創作、演奏両面において、独自の目を養うことができるでしょう。

他人の話を信じることなく、ご自身でショパンの創作と向きあうことで、次世代の作曲家、例えばワーグナーなどにも興味を惹かれるかもしれません。

 

音源


Cyprien Katsaris - Chopin: Piano Sonata No. 3 in B minor, Op. 58

 循環部A4は27’49”から始まります。

 

次回はコーダを分析します。

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