前回は、循環部A4 A5(上記のリンク)を分析いたしました。今回は終結部です。特徴として、1楽章と同様、同主調のH-durに転調して終わっていること、主として対照部の材料を用いて展開されていることです。対照部B2と考えることもできるでしょう。3部分に分けて分析いたします。
1︎⃣終結部始まり
譜例143
譜例143はコーダの最初です。1楽章1テーマ頭に似た音型(緑色)と、5度の連続(赤で囲んだ音)を組み合わせてフレーズを形成し、繰り返しています。
2部分の共通項(緑色 赤色)は、gis(g)-cis-fis-hの5度音程です。
詳細は譜例144 145 146を参照してください。
譜例144はグリーンで囲んだ音列を逆行させて、低音域に(gisはgになっていますが)用いていることを記しました。
譜例145は譜例143の2段目、赤で囲んだ部分の詳細です。Ⅴ₉ →Ⅰの構成音のうち、5度を抜き出して低音域を形成しています。
譜例144 145にはこちらに記しましたように、gis(g)-cis-fis-hの5度という共通項があります。譜例146をごらんください。5度を組み合わせた音型であること、一目瞭然ではないでしょうか?
楽曲全体を統一するテーマ5(孤独の暗示)は、ショパンの豊かな音楽的想像力による多様な表現により、別物に生まれ変わりつつ、最後を迎えます。
2︎⃣接続部分
譜例147
展開材料は対照部B(譜例148)にあります。ピンクで囲んだ2度音程をコーダ(譜例147参照)では反転、且つ縮小させて16分の音型を導き出し、立体的に展開していきます。
そして、続く部分(譜例149)でも対照部Bの別の材料と、5度を組み合わせた音型により、面白い展開を繰り広げます。
譜例149
上記の青で囲んだ音型は対照部B(譜例150参照)から。赤で囲んだ音型(譜例151参照)は5度の組み合わせによるものです。
譜例151は譜例149からの抜粋です。赤の丸がh-eのグループ、赤の三角がcis-gisのグループです。赤の四角 dis-gis(5度の展開音程である4度の跳躍)は曲終わりまで引き継がれていきます。
大まかに記しますと、5度と2度の組み合わせによって、最終まで駆け抜けていくということです。2度は こちらから意味を引き継いでいるとも言えます。
3︎⃣エンディング
3︎⃣からがエンディングです。この部分は、対照部Bの頭の音列と、過去記事に何度か記しましたように、disの音を強調しております。
黄緑色で囲んだ音は対照部Bの頭の音列を拡大したものです。譜例152最後の和声はdisが強調されております。disがこの楽曲を貫く中心的な音であることを、強く訴えていると感じます。
下記譜例153は対照部Bあたまの部分です。
譜例154は4楽章最後の部分です。1楽章の最終部分でも書きましたが、不自然な和声進行(赤で囲んだ部分)がまたもや繰り返されています。disを強調するために、確信的に書いたのだと思います。
1楽章最終部分は以下のリンクより、目次から1楽章コーダに飛んでみてください。似た和声進行を見ることができます。
音源
Cyprien Katsaris Plays Chopin 12 Piano Sonata No.3
終結部は28’38”から始まります。
あとがき
2018年末より、長きにわたって分析してまいりましたピアノソナタ3番、ようやく終わりを迎えることができました。他者にみていただくために譜面を提示して、事細かに分析したのは、初めての体験です。考えていることを言葉に置き換えることの難しさを知りました。
和声や対位法をご存知ない方にとっては、伝わりにくい面もあったかと思います。これは、個人の先生についてお勉強なされば、解決できるでしょう。
さて・・・スピリチュアル楽曲分析。スピリチュアルといえば、精神世界を想像される方も多いでしょう。私の考えるスピリチュアルとは、人間の本質や魂です。作者の人生や魂の叫びに、音楽を通して触れることができればと思って始めた次第です。
次回は、ピアノソナタ3番の分析中に少しだけ触れた楽曲、幻想即興曲を読み解いていきます。