天空の縁側

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作曲家の目を通して、アートや日々の出来事などをあるがままに綴っていきます。

ショパン「幻想即興曲」まえがきと提示部〜ピアノ曲 楽曲分析〜

幻想即興曲については、ショパンピアノソナタ3番を分析中にポリメトリックの例としてご紹介いたしました。下記リンク先参照。

 

mizuki-shiro.hatenablog.com

 

 まえがき

私にとって幻想即興曲は、吹きすさぶ風の音と木々のたわみ、木々の隙間から差し込む光を、心眼で感じ、心耳で聞いているような印象です。

 

ショパンは幻想即興曲について、不本意な出来だと思い込んでいたようで、存命中は出版されませんでした。「死後楽譜を燃やしてほしい」と友人に託しましたが、この遺言は守られることなく、出版されてしまいます。ショパンがなぜこの楽曲を世に出したくなかったのか?世間の噂では、モシュレスの即興曲ベートーベンの月光3楽章に似ていたからだと言われておりますが、真相はわからずじまい。

 

ベートーベンの月光ソナタは、1楽章がcis-moll 2楽章がDes-dur 3楽章がcis-mollです。幻想即興曲は、提示部がcis-moll トリオがDes-dur 再現部がcis-mollでコーダがCis-durとなっています。転調は、インスパイアされたことの一つかもしれません。

 

他に?と思える部分は月光ソナタ2楽章の最初の、内声も含む一部のメロディでしょうか?譜例1と2を見比べてみてください。3楽章に似ているという噂はありますが、私はよくわかりません。

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ベートーベン月光ソナタ2楽章の最初〜譜例1〜

 

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幻想即興曲トリオはじまり〜譜例2〜

赤丸をつけた音を見比べてみれば、3楽章ではなく、2楽章からインスパイアされたのか?と私は思います。が、しかし・・・音列は同じでも音楽の中味は別物です。印象的な素材を自分の中で噛み砕いて、独自の音世界を作り上げているのです。

 

次にモシェレス即興曲をきいてみました。


モシェレス 即興曲 作品89 Moscheles : Impromptu op. 89

中間部分の音価の伸び方、提示部と再現部の右手のパッセージの一部は似ていますが、音楽的には全く別物です。モシェレスは練習曲風の曲調です。

 

上記2曲を聴き比べて、全く違う音楽であることは一目瞭然。ショパンのリリシズム、ピアニスティックな音の動きは独自のものがあります。以前にショパンの真似をするのは簡単だ。だから作曲家としては2流である」と書いておられる先生を発見いたしました。

ノクターンの伴奏形やショパン風のメロディを真似することは容易でしょう。しかし、不定形の部分(心地よい規則破り)を作り出すことは不可能だと思います。だからこそ芸術的といえるのではないでしょうか?

前回まで分析しておりました、ピアノソナタ3番不定形の部分が多く、難解でした。若い頃は難しすぎて近寄りがたい曲であったのですが、最近になってこの曲の奥深さと、当時ショパンが置かれていた状況に共感できるようになりました。

話が別の方向に進んでしまいましたので、元に戻します。

 

幻想即興曲は、オクターブと刺繍音的なモチーフで統一されています。大まかにみて三部分で構成されております。(複合三部形式です)

序奏と提示部

序奏

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序奏〜譜例3〜

 cis-mollの属音と主音によるオクターブから、大胆に始まります。

提示部A

譜例4

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提示部はじまり〜譜例4〜

序奏で提示された属音(赤で囲んだ音)主音(青で囲んだ音)が、主に左手のアルペジオオクターブの距離を保ちつつ、見え隠れします。3小節目からは、和声が変化するためにこの2音の機能はなくなります。(5音は非和声音、1音はⅡ₇の7音として使われます。)

加えて、1小節目の右手、刺繍音、刺繍的倚音による小刻みな動きも3小節目には消え去り、アルペジオ、音階となって姿を変えます。風の音や木々のざわめきが変化していくような印象を受けます。

提示部B

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提示部Bはじまり〜譜例5〜

赤で囲んだ音オクターブで結ばれています。他に、もう一つ、刺繍音的なモチーフも立体的に置かれています。詳しくは譜例6をごらんください。

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刺繍音 刺繍的倚音〜譜例6〜

譜例6 左側の小節は、提示部Bはじまり(譜例5参照)の内声を取り出したものです。(右手親指で弾く音です。)

提示部B1小節目は、Ⅳの第一転回形の和声です。赤丸で囲んだ音は、Ⅳの根音。黄緑色三角で囲んだ音は、構成音fisに対して上下2度から、歌いかけています。これらの音は、非和声音(和音の構成音ではないという意味)といいます。非和声音にもいくつか種類があり、こちらでは倚音という種類が使われています。中でも、縫うように動く形であることから、刺繍的倚音と呼ばれています。

右側の小節は、提示部Aの頭です。こちらの刺繍音的なモチーフを、提示部Bではバリエーションを加えて展開しています。

提示部A'

 

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トリオへの接続部分〜譜例7〜

譜例7Aの再現を経て、提示部を終える部分です。左手のオクターブの重音の連続と、右手のオクターブを含む音型(赤で囲んだ音型)の受け渡しは、提示部コーダとトリオへつなぐ役割を果たしています。こちらもオクターブという要素で統一されています。

音源


Cyprien Katsaris Plays Chopin 06 Fantaisie-impromptu Op66

カツァリスさんの演奏です。伝統の継承者としての立場、ご自身の曲への思いがバランスよく、結び合わさっていると思いました。

 

再現部では、公開レッスンの模様も貼り付ける予定です。オクターブの扱いなど、なかなか良いことをおっしゃっています。くだけた感じの方なので、そちらに注目が集まることも多いのでしょう。しかしそれはちょっとしたお遊びで、本音としては「音楽を一生に渡って追求したい人なのか?」と個人的には思います。

 

次回はトリオ以降を分析します。

 

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