前回は、提示部(上記のリンク)を分析いたしました。今回はトリオです。
概略
トリオは序奏の属音-主音がさまざまな姿となって、現れます。単なるメロディの繰り返しには終わっておりません。この属音-主音の音列は古典的なフーガに多々みられます。
フーガのテーマとは、1フレーズで完結するメロディです。テーマは主唱、答唱が一組みとなっており、これらは完全5度の音程関係で結ばれていることが多いです。しかし、
例外もあります。(譜例8参照)
上記のような組み合わせがトリオには見られます。古典的なフーガにおいても、この例は多数みられます。
トリオ B
トリオへは、赤丸で囲んだ音gis-des(cisを異名同音として読み替え)=属音と主音により接続されます。
トリオの始まり、譜例10左手をごらんください。提示部から受け渡されたDes-durの主音(赤い丸)=desが続き、その後は一旦途切れ、三段目では属音(赤い丸)が続き、再び主音へと戻ります。
そして、右手。左手の属音-主音の流れを受け取り、この2音を主体としたメロディが展開されていきます。穏やかな大波が、小波を生みだすような印象を受けます。
他には、提示部で記したオクターブ(青色で囲んだ音)、刺繍音的な音型(黄緑で囲んだ音)が中心となり、フレーズが構成されていきます。オクターブは重音、ゆったりした音価でのずれ・・・様々な現れ方をします。三連符でのずれは、提示部でのポリメトリックを示唆しているのはないでしょうか?
B1への接続
譜例11はB1に向けての接続部分であり、Bの Endingでもあります。この4小節は属調(As-dur)に一時的に転調します。色彩が変化する、印象的な部分ですね。ショパンは音の色彩を大切にした作家であるようです。この時代は調性音楽の時代でしたから、色彩変化を容易に作り出せたのでしょう。
現状は、前衛音楽はなりを潜め、調性のある作品も受け入れられる時代となっております。しかし、ショパンのような瑞々しい色彩感覚にあふれた楽曲は、時代的に作りにくくなっていると思います。
Endingでは、刺繍音がうまく活用されています。黄緑色で囲んだ音型は、B1の一小節
前、左手の低音部As-Ges-Asに接続します。この小節、3拍目からは、Des-durのⅣで、何の変哲もない和音なのですが、その前1拍〜2拍にかけてがAs-durのⅠ=Des-durのⅤであるため、良い意味での強引さを感じるのです。つまり、Des-durのⅤ(ドミナント)→Ⅳ(サブドミナント)の進行が私の耳には、不思議な感覚を与えてくれます。
このⅣ(3〜4拍目)はppの表示がありますが、「前のフレーズを引きずらず、改めて」という意味も含まれているのではないでしょうか?
理屈はともかくとして、私にとっては魅力的で、心惹かれる部分です。
赤い点線で囲んだ音des-as(主音-属音)はこちらに記した通りです。
B2から再現部にかけて
B2はBの繰り返しであります。大切なのは再現部への接続です。再現部は再びcis-mollに戻ります。同主調への転調ではありますが、トリオは♭系、再現部は♯系であるがために、エンハーモニックで読み変えます。
且つ、Des-dur主音の上で、余裕を持ってドミナントを保留し、cis-mollのⅠにつなぎます。詳しくは下記譜例13をごらんください。
音源
Cyprien Katsaris Plays Chopin 06 Fantaisie-impromptu Op66
カツァリスさんの演奏です。
次回は再現部を分析します。