引き続きショパンの楽曲を分析いたします。今回はノクターンの中で、最も有名な曲、2番をとりあげます。ショパンのノクターンの代名詞的な位置付けでもありますね。
概略
ショパンが手本にした作曲家は、ジョン=フィールド。私は、ショパンよりクールでシンプルな印象を受けました。ノクターン2番のお手本の曲は、ジョン=フィールドノクターン集の1番です。
和声的には減七、主音上の減七が耳につきます。これは減七の柔らかな響きが、夜の雰囲気に似つかわしかったからかもしれません。この辺の和声の置き方が、フィールドとは違うところです。
小規模のロンド形式で書かれており、歌的なニュアンスが強いです。ショパンは歌が好きだったのでしょう。
循環部A A1
全体は3つの材料で統一されています。
後部倚音の詳細は譜例2をごらんください。
倚音とは非和声音のひとつです。譜例2右側の小節のように、拍の表や強拍に置いて、和声構成音に対して順次進行させます。後部倚音とは譜例2左側の小節のように、拍の裏や弱拍に置き、拍の表にある和声構成音に対して順次進行する音の動きを指します。(青の丸が倚音、後部倚音。これらの次の音が和声の構成音です。)
次に刺繍音と派生した和声についてご紹介しましょう。譜例3をごらんください。
右側の小節は曲冒頭のメロディです。黄緑の丸は刺繍音といいます。縫い目のようにも見えますね。この刺繍音から派生した和声が、左側の小節です。こちらは刺繍音を模倣しつつ、和声を形成しているといえます。
譜例3にもありますように、主音es上でⅠ→減七(同主調からの借用)→ Ⅰと減七を囲んでの和声の動き。この良き効果が、旋律を盛り立て、ロマンチックな雰囲気を醸し出しているのでしょう。
この減七は別名準固有和音といいます。準固有和音とは、同主調の和声を借りることを示します。この場合はes-mollのⅦ₇ということになりますね。短調の和声を借りることにより、柔らかく繊細な雰囲気を得ることができるのです。
もしこの和声が、Ⅰ→Ⅴ₇→ Ⅰであったり、主音上の減七がⅤ₇であったならば、この楽曲はわれわれの耳にこれほど馴染まなかったかもしれません。和声の教科書的な考え方をすれば、減七使用のための、お手本のような楽曲だと思います。
対照部B
対照部Bはアウフタクトから入り、属調のB-durに転調します。
歌に例えるならば、循環部がソプラノソロ、対照部は男声と女声のデュエットのようにも感じられます。青い線で囲んだメロディを1オクターブ下げてみてください。対する女声はピンクで囲んだメロディ。この2つのメロディが支え合って動きます。
その後は、循環部A2→ 対照部B1→ 循環部A3と進み、コーダに入ります。
コーダ
コーダは準固有和音のⅣ(オレンジ色で囲んだ部分)が印象的です。個人的には、歌とオーケストラの掛け合いを想定しているのではないか?と思いました。
音源
Nocturne No.2 Op 9-2 Cyprien Katsaris
カツァリス 氏の若かりし頃の演奏です。私は最近まであまり彼のことを知りませんでしたが、最近は実演を聴くなど、愛聴しております。
次回は、ショパンの楽曲か、古典派の楽曲で馴染みのある曲を分析したいと思います。仕事の都合上、しばらくは短い曲が多くなりますが、余裕ができましたら、歯ごたえのある曲も分析していきます。