前回はop.9-2というショパンのノクターンの代名詞と呼ばれる有名曲を分析いたしました。
今回は同じ時期に書かれたと思われる、1番をみていきます。
概略
ショパンは、同じ音の形を複数の曲で使っています。ピアノソナタ、スケルツォ、ノクターンなどなど。これはおそらく、ショパンがポーランド人であることが理由なのだと思います。我々も、知らず知らずの間に日本的なメロディが体に刻み込まれていたりしますね。
ポーランド民謡、調べてみました。
「私のヤシエンコはどこに?」
Jarzębina - Gdzie mój Jasieńko
上記の曲で特徴的な音の形が、ショパンの楽曲には現れます。譜例1はヤシエンコはどこに?のメロディの一部です。
赤い丸で囲んだ音の動きは、ショパンの特徴といえるでしょう。ショパンの影響であるのか、流用かはわかりませんが、ショパンのメロディに酷似した歌が、日本の作曲家の作品にはいくつかあります。クラシックだけではなく、歌謡曲系にも。日本人には馴染みやすそうな音の流れなので、意識して使ったか?ご自身が気に入っておられたのでしょう。
ノクターン1番は複合三部形式で書かれております。順にみていきます。
提示部A
提示部はA A1の2部分に分かれます。提示部とは、この材料で展開していくのですよ、という宣言がなされる部分です。ノクターン1番は、大まかにみて4個の材料が提示されています。(譜例2を参照)
譜例2
上に記しましたように、最初のメロディには、以下4個の材料が含まれています。
シンコペーションは、左手の伴奏形にも現れます。(譜例3参照)
黄緑で囲んだ右手のパートは、譜例2の左手で、黄緑の丸をつけた部分を取り出しています。分散和音の残りの音も主音のB(主音保続音)をbassとして、シンコペーションで動いています。シンコペーションの組み合わせにより、右手のメロディを強調しているとも受け取れます。
この楽曲は保続音も大切な要素です。ショパンはバッハから得たものが大きかったという説を読んだ覚えがあります。保続音が延々と続くのは、バッハのオルガン曲からの影響もあるのではないでしょうか?
また
譜例2のアウフタクト、オレンジで囲んだ音(b-des-b)は調の流れを暗示しているのではないかと個人的には感じております。→提示部--b-moll トリオ--des-dur 再現部--b-moll
メロディを立体的に聞かせる工夫はそこここに見られます。これらを意識することは、演奏、創作のヒントにつながるやもしれません。
提示部A1
譜例4は提示部A1の終わりの部分です。特徴はナポリの和音(青い丸)と2〜4小節にかけてのたたみかけのフレーズです。たたみかけは提示部最初の連打を、言い換えて発展させているとも考えられます。
オレンジ色で囲んだ音は、こちらに記しました材料(b-des-b)を発展(拡大)させているのではないでしょうか?→des-f-des
ナポリの和音については、続くTrioの重要な材料となります。
中間部(Trio)B
中間部は平行調のDes-durに転調します。提示部Aでも紹介いたしました、シンコペーション、ポーランド民謡的音型が主たる材料となっております。これらに加えて、A1で触れましたナポリの調(半音上のD-dur)への短い転調が現れます。
半音階的な音の流れは、あちこちにみられます。例としてTrioの始まりのメロディ。こちらも半音階的な音の流れですね。
譜例6はナポリ調(D-dur)へ転調する部分です。desをcisへと(ピンク色の丸)読みかえて、D-durへエンハーモニック転調をし、減七(赤い丸)を共通和音として(エンハーモニック転調)Des-durへ戻ります。
共通和音による転調は、譜例7をごらんください。
左側の和声は D-durの減七です。そして右側の和声はDes-durの属調であるAs-durの減七(ドッペルドミナント)です。赤い線で結んだ音は同音ですが、調性に応じて読み替えています。これをエンハーモニック(異名同音)と呼びます。
中間部(Trio)B1
こちらでは、同じフレーズの繰り返しのように見せて、異なるいろどりで展開されます。中世の時代に教会で歌われていた旋法が一部使用されています。ちなみに長調や短調は、17世紀にヨーロッパで確立されていったものです。
譜例8、 B1はトリオの後半です。ここではC♭(Ces)の音が重要です。一見、Ges-durの属七が延々と続いているようですが、トニックは置かれていません。ここでは、教会旋法の一つ、ミクソリディアンが使用されています。
そして・・・続く部分では。
譜例9においてはC♭(Ces)の音はなくなり、長調にあたる旋法、イオニア
で描かれます。
譜例10は、イオニア、ミクソリディアンの旋法です。
ノクターンとは、修道院の夜の祈りから瞑想、黙想という意味に発展したようです。この部分(Trio後半)には、(ノクターンの)意味を知る前から、天(神)を黙想するような雰囲気を感じておりました。作曲者の狙いは知る由もありませんが、もし私の思いと同じであったなら、非常に嬉しく思います。
再現部
提示部を半分程度繰り返して終わります。最終小節は黙祷するかのように、ピカルディの3度(同主調の主和音)で終わります。
音源
録音が古いということですが、演奏は古さを感じません。他のピアニストの演奏も聴いてみました。ルービンシュタイン氏よりもこちらのほうが私は好きです。
アリス=サラ=オット??さんの演奏、初めて聴きましたが、フレーズが短いと感じました。他に、愛の夢も聴いてみましたが、同じような印象です。ピアノを演奏することと、曲を聴かせることが別々になっているのではないかと思います。日本では人気ピアニストなのでしょうが、ヨーロッパではどうなのでしょうか?素人にはよくわからない演奏でした。