概略
平均律1巻8番はPreludoがes-moll Fugaはdis-mollで記譜されています。ピアノで弾くことを考えれば、Fugaもes-mollで記譜したほうが読みやすいと思います。また、出版社によってはes-mollで記譜されているものもあります。ただ、disという弦楽器的でしかもビロードのような調性の色合いは生かしたいものです。異名同音であっても、響きは違うのです。
なぜ異名同音で書かれたか?などと論議するつもりはありません。論議より音楽そのものを味わい、その結果個々に判断すれば良いことだと思います。
前置きはこのくらいにしまして・・・この楽曲はストレッタという手法を使った緊張と、テーマの拡大などを使い、弛緩を暗示する部分の組み合わせからできています。ストレッタとは、追い上げのテクニックです。テーマを歌い終わらないうちに、再びテーマが歌われ、重なっていきます。
前半から中盤にかけてはストレッタとテーマの提示が繰り返し現れます。嬉遊部(つなぎの部分)ではテーマ中の材料がカノン的であったり、音列だけを反復したりなど、様々な方法で緊張を高め、テーマの提示へとつないでいきます。
中間部分は、ストレッタのみ。テーマの頭と頭の間隔が少しづつ狭まっていき、クライマックスをむかえます。
その後は、テーマの拡大が現れ、変形されたテーマとともに絡み合い、緊張が解かれていきます。
全体は大きくみて3つに分かれますが、6〜7部分程度に分け、見やすさを優先することにしました。今回は提示部までを記します。
提示部
譜例1
フーガの分析は「スピリチュアル的楽曲分析」ではお初になりますので、まず用語から説明いたします。
- フーガのテーマは、主唱と答唱がひと組みとなっております。この二つをつないだり、嬉遊部(展開部)へのつなぎは、コデッタという短い旋律を作って流します。
- テーマには対旋律が絡みます。テーマを支え、且つ印象的な要素を含みます。
- 答唱とは概ね、主唱を完全5度上に移調したものであります。また、主唱冒頭に属音があるもの(8番のフーガはこの例にあてはまります)、属調部分を含む主唱の答唱は、これらの部分を完全4度上に移調します。前者を正応、後者を変応と呼びます。
テーマの特徴
さて、平均律8番のフーガのテーマの特徴は畳みかけと逆行にあると思います。(譜例2参照)これはストレッタに意味をつなげ、自由声部(テーマ以外の部分)のモティーフにも受け継がれ、緊張を持続させていきます。
譜例2の赤の囲みは下記のリズムの繰り返しです。
テーマの再現、ストレッタにより、このリズムは繰り返され、畳み掛けを強めていきます。それから、黄緑色の部分。逆行音列も中心的要素です。これらは曲が進むにつれ、明確に見えてきます。
譜例1のピンク色で囲んだ音、これらは、対旋律において、テーマの畳み掛けのイメージを凝縮して表している音型です。
第一嬉遊部へつなぐ
提示部の最後、答唱の変形が現れる部分(譜例1 二段目の最終小節から)の自由声部は、テーマの材料がさまざまな形で言い換えられています。
まず、答唱の入りに向けて、アルトの声部で答唱を誘い出します。こちらは譜例1の青線を引っ張った部分です。詳しくは下記の譜例3をごらんください。
答唱と同じ音列がアルトにありますね?
そして次の小節(譜例1の3段目、1〜2小節目にかけて)、テーマの材料である逆行を、繰り返したり、声部を超えて模倣することにより展開し、次の第1嬉遊部へとつないでいきます。(譜例4、譜例5を参照)
次回は第一嬉遊部と属調のストレッタを分析します。
オンラインレッスンのお知らせ
現在、オフラインでアレンジピアノのレッスンを行っています。これとは別に、オンラインに限定し、楽曲分析、和声を含むキーボードハーモニー、楽典(和音と調性判定を重視)、聴音(特に2〜4声中心として)の個人レッスンを来年度より行う予定です。これはコロナなどの伝染病が理由ではありませんので、伝染病が終息に向かったとしても続けます。詳細は別記事として、アップいたします。