1楽章につきましては、カテゴリーの、スピリチュアル的楽曲分析をごらんください。
前回は提示部(上記のリンク)を分析いたしました。今回はトリオと呼ばれる中間部分です。
概略
トリオは静謐な情景を思い起こさせます。スピリチュアル的暗示として、5と4の要素は持続します。提示部とは姿を変え、主音、属音(第5音)、これらの重音、時に下属音(第4音)が保続音として使われます。加えてトリオ1と3はH-Fis-Cis-GIsの完全5度のモティーフにより、特徴のある色合いをもって統一されております。
私はこの部分に天と地の対話を感じとりました。メメントモリ・・・死を忘れるな!メメントモリは西洋では定番の思想です。彼の中で、死に向かっていく自分を見つめているような、印象を受けました。死を受け入れ、静かに楽しむような音楽を描きたかったのはないでしょうか?これは3楽章にも受け継がれていきます。
提示部には、三部形式と記しました。正確には複合三部形式です。あまり形式にはこだわりたくないのですが、説明いたします。
提示部=ABA Trio(トリオ)=CDC 再現部=ABAです。今回はトリオを3つにわけて記していきます。
トリオ1(C)
トリオ1は譜例35にありますように、H-Fis-Cis-GIsの完全5度で統一されています。続くトリオ2にも形が崩れて現れますが、はっきりと確認できるのはトリオ1とトリオ3(トリオ1の繰り返し)です。
音源:13’5”〜
譜例36の頭は、提示部の最終の部分です。私は天に向けてラッパを吹くような印象を受けました。元は提示部1の5.のリズム(2楽章提示部1と譜例31 2小節目参照) から派生したもので、トリオ2では拡大され別のフレーズに形を変える場面もあります。
トリオ1は、下記の材料で統一されています。統一と書きましたのは、1楽章より即興的な部分が減り、少ない材料で展開されているためです。
- シンコペーション 一部をピンクで囲み、矢印をつけています。もちろんこの部分だけではなく、全体に広がっています。
- 提示部1の7. オレンジで囲んだ音型を拡大、反転逆行するなどして利用。
- 8度の音程を意識的に使う。モティーフの模倣(黄緑色で囲んだ部分)など。対話は音楽の世界では、模倣という単語に置き換わっています。
- 半音階でのつなぎ 最後の段の右手、ラベンダー色で囲んだ音。Cis-Cisis 次の譜例37にはDIs-Eと続きます。
- 完全5度H-Fis-Cis-GIsの繰り返し。赤の四角、線、矢印でつないだ部分です。最後の段では、H-Fis-Cis-GIsの逆行、GIs-Cis-Fis-Hが低音部で響きます。(Hの音は次の譜例37をごらんください)
いずれも提示部の材料を発展させています。
譜例37は36の続きで、フレーズの静めの部分です。保続音の上で、変終止的な展開を繰り広げ、H-dur Ⅰ度に落ち着きます。
赤い四角で囲んだ部分は完全5度H-Fis-Cis-GIs 、青い四角はオクターブの受け渡し、オレンジの丸で囲んだ部分はトリオ2への接続に使われます。これは1楽章でも多用されていました、ショパン独特のスタイル「前触れ」です。紫の四角で囲んだ部分はトリオ2で、ほんの少し形を変えて、(tieがなくなり、連打)多用されます。
譜例38はトリオが始まって、8小節目のフレーズです。この小節はⅡ⁷の和声(Cis-E-Gis-H)ですので、普通は根音のCisを1拍目に置きます。しかし、ショパンはGis(5音)を置いています。そこで修正を加え、根音のCisを1拍目にもってきたとしましょう。
修正後は、1拍目に重心がきて、上声部のEと共に動くことになります。ショパンはポリフォニックに聞かせるために、外声と内声のフレーズをずらしたのだと考えました。全てが一緒に動く部分を避けたかったのでしょう。天と地はかけあいをしながら、次の舞台へ動いていきます。
譜例39は重要な要素であるオクターブの拡大縮小を記しました。トリオの最初の部分では、1〜2小節目にあるように、長くても2拍の伸び、4小節目ではで数えて、6拍分伸ばし、オクターブ上で受ける。このようにゆったりした長さに変化しているのは、フレーズの収めを表しています。ここでフレーズを終わりにして、次のフレーズが始まるという暗示と捉えました。
トリオ2(D)
音源:13’33”〜
トリオ2(譜例40)へは、トリオ1最後(譜例37参照)の右手の音の流れをシンコペーションにしてつなぎます。(オレンジ色の丸で囲んだ部分です。)そして5小節目、上声部に提示部コーダの最終部分(譜例36の最初を参照)のモティーフが再び現れます。
このラッパの合図により、1楽章の1テーマから派生した音型=提示部のほとんどを埋め尽くしていた8分音符の、拡大音型(緑色で囲んだ部分)が受け渡され、譜例37の最後の内声の音型が、tieをはずして現れます。(紫色の丸)
上記3個の材料が、立体的に配置されています。
譜例41は 半音階、シンコペーションを使って、沈めの部分へつないでいく部分です。半音で接続しつつ、シンコペーションを使い、連打を繰り返し、沈めの部分になだれこみます。
沈めの部分(譜例では5小節目)は、保続音(下属音の)上で変終止的展開が続きます。これはトリオ1、最後の部分の発展とみるべきでしょう。(譜例37参照)
トリオ3(C)
音源:14’08”〜
トリオ1(C)の再現です。
2楽章は提示部、トリオとも、無駄のない展開でわかりやすいと思います。再現部は提示部の繰り返しですが、トリオの最初に記した完全5度(譜例35)の謎を探ってみたいと思います。
音源
Cyprien Katsaris - Chopin: Piano Sonata No. 3 in B minor, Op. 58
提示部の途中から再生されています。トリオは13’5”あたりからです。
次回は再現部です。
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